秋田で育まれてきた「発酵食文化」とは、一体どんなものなのでしょう?
秋田の発酵食品に関わる方々に、これまでの取り組みと奥深さについてお話を伺いました。

豊かな秋田の食のルーツは発酵にあり。

  秋田県は北東北に位置し、西は日本海、北と南と東の三方は山に囲まれた場所です。冬は厳しい寒さに見舞われ、山間部では雪が多く降り積もります。四季がはっきりしていて、古くから稲作が盛んであることも秋田の特徴のひとつです。江戸時代、東北の中でも凶作による飢饉が起こることもなく、毎年豊かに米が穫れる場所でした。

 豊富に穫れたお米は食べるだけでなく、さまざまな加工品にも活用されました。なかでも、秋田の発酵食文化を語る上で欠かせないものが「麹」です。秋田県南部にはひとつの集落にひとつの麹屋があったと言われるほど、生活に密着していた存在でした。当時は家庭で麹を使うことが一般的で、自家製の漬物や味噌などに使われてきました。冷蔵庫が今のように普及する前、寒さが厳しいということは、冬には食糧の確保が大変だったということ。冬の間に家族を飢えさせないためにもお母さんたちは、春から準備をしていました。山菜、野菜、魚介類を塩や麹で漬けたり、保存食作りに精を出したのです。

気候や水、豊かに穫れるお米。
発酵食品をつくるための条件がそろっていた秋田。

 秋田県には、味噌、醤油、日本酒、納豆、漬物などの発酵食品を造る製造所が多数あります。長く発酵食品を造っている場所には、自然と独自の酵母が生まれます。それらは「蔵付き酵母」と呼ばれ、それぞれの個性の源になっています。発酵食品、そして酵母を重要視している秋田県では、これまでに秋田県オリジナル酵母を開発してきました。清酒酵母である「秋田流花酵母(AK-1)」や、「秋田雪国酵母(UT-1、UT-2)」のほか、パン作りに非常に適した特性を持つ「白神こだま酵母R」なども生み出されています。

 いずれの酵母を使うとしても、目に見えない微生物たちが、発酵の過程でどんな働きをするのか。彼らにうまく醸してもらうために、環境をどう作れば良いのか。それぞれの造り手は、その酵母との対話を繰り返し、経験と技術を代々引き継ぎながら造り続けてきました。

 もちろん、発酵させるための条件が整っていたことも秋田が「発酵の国」と呼ばれる所以です。腐らせずに発酵させ、うまく熟成させるためには清らかな水と空気、そして寒さが必要でした。寒さは発酵をゆっくりと進めるために必要な要素です。味噌や醤油、日本酒、漬物やしょっつるなどは、すべて気温の低いなかでゆっくりと醸されています。また、雪が多く降り積もることで大気中の汚れやチリなどが雪に吸収され、空気がきれいになるとされています。それは発酵する際に大敵となる雑菌の繁殖を抑える効果もあるのです。

 雪国であること、そして豊かな米に恵まれ、きれいな水が豊富であること。こういった「環境」に起因することはもちろん、何より「おいしいものを食べたい。おいしいものを食べさせたい」という思いが強い県民性であることも無視できません。飽くなき食への探究心が、秋田の発酵食文化を根付かせ、発展させてきたのです。

 日々の生活、食事に欠かせない存在である発酵食品。その素晴らしさが、今でも秋田の人々の暮らしを支え、豊かにしています。

 秋田県に根付いているさまざまな発酵食品について、ご紹介していきます。

秋田の発酵食文化の最大の特徴である麹

 秋田県では収穫されたお米を食べるだけでは消費しきれず、麹に変えてさまざまな加工品に活用してきました。日本酒、漬物や味噌などにこの麹をふんだんに使い、旨みがたっぷりの食べ物を造ってきたのです。より白く、より甘いことを追求した「あめこうじ」というオリジナル麹もあります。

漬物

代表格はいぶりがっこ
でも、それだけじゃない!

 秋田の漬物の代表格といえば「いぶりがっこ」。煙で燻し、米糠や塩、砂糖などで作った糠床に漬けた秋田を代表する伝統食です。その他にも炊いたご飯や麹を使う「茄子の花ずし」や「なた漬」など、さまざまなものを工夫して漬物にしてきました。

日本酒

全国に誇る美酒大国・秋田

 秋田は酒造りが盛んな地域。寒冷で積雪の多い冬の気候は酒造りに適しています。この気候を利用して、もろみの仕込みから発酵まで低温でじっくりと時間をかけて行う「秋田流低温長期発酵」で造りが行われ、淡麗でなめらかな酒が出来上がります。良質な米や優れた醸造技術を持つ山内杜氏も秋田の酒造りを支えています。

味噌

米をふんだんに使う独自の文化が発達

 秋田の味噌は、米麹の割合がほかの味噌に比べて多いのが特徴で、米どころ秋田ならではです。米麹の割合は地域によって違いますが、味わいは塩馴れしたやわらかな甘味と旨味が調和しています。時代とともに塩分も控えめになってきており、甘口化している傾向にあります。

しょっつる

塩漬して発酵させた伝統の調味料

 日本三大魚醤のひとつで「塩汁」がなまってしょっつると呼ばれています。ハタハタなどの魚介類に塩を加え、1年以上熟成させた深みのある味わいは発酵のたまものです。昔は県内沿岸部の多くの家庭で造られていましたが、現在は家庭での生産は少なくなり、いくつかの企業で造られています。

others

秋田で育まれてきた多様な発酵食

 日本三大うどんのひとつ「稲庭うどん」も発酵食のひとつです。“発祥の地”の言い伝えもある「納豆」は、すりつぶして味噌汁に入れた「納豆汁」が県南部の冬の風物詩となっています。またハタハタを米と麹で漬け込んで熟成させた「ハタハタ寿司」は、ハレの日の定番料理で、酒の肴にも最高です。近年は、ワインやビールなどの日本酒以外の醸造酒も造られています。

さらに奥深い秋田の発酵食品に関する情報は、「あきた発酵ミュージアム」をご覧ください。

あきた発酵ミュージアム